JUNOTA

<<NO.2>>

太田潤 2024-7
紙、アクリル絵具 130mm×130mm 2024-03-19

『くれないひと』

 部屋には夕陽が射し込んでいた。白い壁紙は赤く染まっている。時計の刻む退屈なリズムが空間を満たす。その音を聞く限り、時間は確かに進んでいるはずだった。それなのに、その太陽はいっこうに沈まない。二人は窓を開け、ベランダに軽く手を置いてそれを眺めた。何時間が経っただろう。

「まだ、慣れないね。その星の時間に」一人が窓辺に置いた観葉植物に咲いた花を指先でつつきながら言った。指が触れた瞬間、その花はびっくりしたように閉じた。
「だってまだ三日だもの。ここへ来てから」もう一人が答える。同じように別の花に触れる。花は閉じる。あたりは静かだった。みんなもう眠っているのだろうか。自分たちだけが取り残されたような感じがした。
「なんだか不思議。ここへ来てから、もう何度も眠って、目覚めているのに」一人が壁にかかった時計を見上げながら言った。「やっぱり買ったほうが良いかな?この星の時計を」
「じきに体が順応するさ。すぐにこれが普通だって感じるようになる。そして、こうやって夕陽を眺めることもなくなるよ。そうなったら買いに行こうか、例の店へ。」そう言って一人は花をつついた。花は閉じた。
「なんだか、かなしいね。」と一人がつぶやいた。「地球の時間を忘れてしまうのは」
「そろそろ眠ろうか。起きたらきっと、星空が見えるよ。」もう一人は言った。