JUNOTA

<<稲刈り>>

太田潤 2022-416
キャンバス、油彩 273×220 2022-10-29
暮らしの実景 8 / 159

この町のこと
 用事があって僕は夕方の農道を車で走っていた。車を走らせていると、道路沿いの田んぼに妙なものが立ち上がっていた。夕方の平行に近い光を受けてそれは田んぼの中に並んでいた。ハザ掛けの風景だった。それまでも度々ハザ掛けをしている田んぼを見かけることはあったのだけれど、その時は何故かいつもと違う感じがした。それはきっと、夕焼けの強い光が作るコントラストの強さだとか、その日の天気のよさだとか、そういうことが影響しているのだと思う。そしてその風景を見たときに僕はこの町を絵に描いてみたいと思った。

 いま目の前にあるこの風景はいつまでこのままあるのだろうか。僕は岐阜県東部のとある町に移住してきた。自然豊かなこの場所で暮らし始めて2年になる。生活者として過ごして気がついたのは、僕が魅力を感じたその風景は人の暮らしがそこで営まれることでできあがったものだということだ。農作物を育て、草を刈り、掃除をする。その手入れの仕事の担い手の中心は70 歳を超えた方々だといっていいだろう。

 現在1200 人ほどの町の人口は20 年後には600人に、40 年後には300 人になという予測があるらしい。つまり僕が現在の彼らの年齢になることには町の人口が1/4 になっているということだ。そうならないように町全体として移住者の受け入れに力を注いでいる。僕らの他にも移住してきた人がちらほらいるし、移住希望の問い合わせも少なくない数あると話に聞く。けれど町全体で考えたときに町の人口が減っていくことはほぼ間違いないことだろう。そのときこの町のこの暮らしこの風景はどうなるのだろうか。

 そういうことが僕がほとんど10 年ぶりに筆を手にしたことと無関係ではないように感じる。